ベイスクのクラッシュについて思ふ


 昨日のベイスク・フィッセールのクラッシュを見て強く思う事がある。
私達がモータースポーツを始めた頃に比べると、今はSNSの影響で非常に導入部分に触れられる機会が多くなり、それは本当に良い事だと思う。
 ただ気になる事も同時に多々ある。
それは大した経歴がない人達が〝教えてあげる〟と言うお題目のもとで繋がりを増やしている事だ。
単純にモータースポーツの仲間の繋がりだけなら何ら問題は無い。むしろ『大いにファンの拡大をしてくれよ』と言うところである。
 ところがそうでは無く〝レースを教える〟〝KARTを教える〟といった類の所謂、実戦の部分で繋がりを求めている方々が一定以上いる事だ。
 それがJAF戦に出ているチームや実績のあるKART SHOPなら、これまた実に良い事で大いに拡散して欲しいモノである。しかしそうでは無く、レンタルカートにミニサーキットの走行会、非公認競技の経験しかない。或いは経歴を見るとスーパーFJしか無いなど、「おいおいちょっと待てくれよ」と言いたくなる方々の発言が目に付く。
 私の友人で、レースの初心者からF1ドライバーまで上り詰めるにキチンとマネジメントした方がいるが、彼いわく『F3に乗るまでは「レーサーやってます」と言うな』と常々言っていた。


 これは非常に理解できる話しで、F3に乗ったドライバーなら誰もが言うが「ここからがレーシングカーですね」と口を揃える。さしずめ今なら最低でもFIA F4か?
 前にうちにいたドライバーはレースを始めて1年と11ヶ月でスーパーフォーミュラのテストに漕ぎつけた。彼は初めて乗ったSF13で「これがレースカーっすね。ここからですね。」と同じ事を言った。家業を継がなければならず、惜しくも引退したが。

 さてなぜ、この様な事を言ったか?と言う問題である。
昨日のあのクラッシュ。ベイスクは前方で起きたクラッシュを回避する為に自らクルマをスピンさせ、フロントからの衝突を避けた。前からいった場合の危険度と、後ろから行った場合の違いは言わずもがな、である。

動画を検証する。


 最初の先頭車輌(赤いクルマ)。これは単純なミス。次に2−4番目(これがベイスク車)は駆動を遮断し、スピンさせクルマを安全にぶつける行動に出ているのがハッキリとわかる。ところが五番目の赤いクルマ。これが完全に事故現場に視線を奪われてしまい、やった事はブレーキングのみ。
 当然フルロックして止まる訳は無く、そのままベイスク車に激突。その後ろの六番目以降のクルマは衝突回避をしクルマを回しているが、八番目の黒いクルマもまた視線を事故現場に奪われ、ブレーキのみの対処でフロントから突っ込み、ベイスク車にトドメを刺し横転。ユベールの当たり方とほぼ同じだが、たまたま今回はE/G部分だったので助かった様なもんだ。
 これがモノコックのコクピットサイドにダイレクトに当たっていたら、ベイスクは死んでいた可能性もかなり高い。
 『事故が起こった方向を見るな』とは昔、良く言われたものだ。なぜなら人間は見た方向にクルマが行ってしまうからだ。
 またハイスピードでの突然の衝突回避で、一番やってはいけないのはフルブレーキと言うのも教わるはず。特に横Gが抜けていない所では駆動力を抜いて(クラッチを切り)、クルマをスピンさせろと言うのは基本中の基本のはず。事故現場を見てフルブレーキを掛けたらもう突っ込むしか方法は無い。


 かなり古い動画だが、富士のロングストレートの先で先行するCカーが吹っ飛んだ時、そのすぐ後ろにいた関谷選手の衝突回避行動を見て欲しい。真っ直ぐ前見てフルブレーキ→ロックアップなんてやっていない。キチンと経験値を積み重ねて来ているドライバーだからこそ、出来た回避行動だと思う。

 勉強を学ぶとき、小卒と中卒と高卒と大卒のどこから選びますか?と言うハナシである。大卒といってもFランもある訳だが、流石に小卒には頼まないでしょう?つまりはそう言う事なのです。

 ともあれ、骨折なども無く、大事に至らなくて良かった思います。一度、ウチで走ってくれた選手だけに、昨夜は安否が判明するまで流石に眠れませんでした。1日も早い回復を願います。